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爾薩待「はい。」(農民二 登場)
農民二「植物医者づのぁお前さんだべすか。」
爾薩待「ええ、そうです。」
農民二「陸稲《おかぼ》のごとでもわがるべすか。」
爾薩待「ああわかります。私は植物一切の医者ですから。」
農民二「はあ、おりゃの陸稲ぁ、さっぱりおがらなぃです。この位になってだんだん枯れはじめです。」
爾薩待「ああ、そうですか。まあお掛けなさい。ええと、陸稲が枯れるんですか。」
農民二「はあ、斯《こ》う言うにならんす。」(出す)
爾薩待「ああ、なるほど、これはね、こいつはね、あんまり乾き過ぎたという訳でもない、また水はけの悪いためでもない。」
農民二「はあ、全ぐその通りだんす。」
爾薩待「そうでしょう。またあんまり厚く蒔き過ぎたというのでもない。まあ一反歩四升位|蒔《ま》いたでしょう。」
農民二「そうでごあんす、そうでごあんす、丁度それ位蒔ぎあんすた。」
爾薩待「そうでしょう。また肥料があんまり少ないのでもない。また硫安を追肥《ついひ》するのに濃過《こす》ぎたのでもない。まあ肥桶《こえおけ》一つにこれ位入れたでしょう。」
農民二「はあ、そうでごあんす、そうでごあんす。」
爾薩待「そうでしょう、またこれは病気でもない。ぼく考えるに、どうです、これ位ぐらいのこんな虫が根についちゃいませんか。」
農民二「はあ、おりあんす、おりあんす。」
爾薩待「なるほど、そうでしょう。そいつがいかんのです。」
農民二「なじょにすたらいがべす。」
爾薩待「それはね、亜砒酸《あひさん》という薬をかけるんです。」
農民二「どごで売ってべす。」
爾薩待「いや、勿論私のところにあるのですがね、いまちょっと切れていますから、証明書を書いて上げます。(書く)これをもって町の薬屋から買っておいでなさい。硫安と同じ位に薄めて使うんです。」
農民二「はあ、こいづ持ってて薬買って薄めで掛けるのだなす。」
爾薩待「そうです。」
農民二「なんぼお礼上げだらいがべす。」
爾薩待「診察料は一円です。それから証明書代が五十銭です。」
農民二「一円五十銭だなす。(金を出す)さあ、どうもおありがどごあんすた。」
爾薩待「いや、ありがとう。さよなら。」
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農民二 退場

農民三 登場
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