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農民三「先生、あの薬わがなぃ。さっぱり稲枯れるもの。」
爾薩待「いや、それはね、今も言ってたんだが、噴霧器を使わずに、この日中やったのがいけなかったのだ。」
農民三「はぁでな、お前さま、おれさ叮《てい》ねいに柄杓《ひしゃく》でかげろて言っただなぃすか。」
爾薩待「いやいや、それはね、……」
農民二「なあに、この人、まるでさっきたがら、いいこりゃ加減だもさ。」
農民一「あんまり出来さなぃよだね。」
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(医師しおれる)
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農民四、五、六 登場
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農民四「じゃ、この野郎《やろう》、山師たがりだじゃぃ。まるきり稲枯れでしまたな。」
農民五「ひでやづだじゃ。春から汗水たらすて、ようやぐ物にすたの、二百刈りづもの、まるっきり枯らしてしまったな。」
農民六「ほんとにひで野郎だ。」
農民二「全体、はじめの話がら、ひょんただたもな。じゃ、うな、医者だなんて、人がら銭まで取ってで、人の稲枯らして済むもんだが。」
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爾薩待(うなだれる)
(農民等 黙然《もくねん》)
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農民二(ややあって)「いま、もぐり歯医者でも懲役《ちょうえき》になるもの、人|欺《だま》して、こったなごとしてそれで通るづ筈なぃがべじゃ。」
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爾薩待(いよいよしょげる。)
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農民二「六人さ、まるっきり同じごと言って偽《うそ》こいで、そしてで威張って、診察料よごせだ、全体、何の話だりゃ。」
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爾薩待(いよいよしおれる)
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農民一(気の毒になる)「じゃ、あんまりそう言うなじゃ、人の医者だて治るごともあれば、療治|後《おく》れれば死ぬごともあるだ。あんまりそう言うなじゃ。」
農民三「まぁんつ、運悪がたとあぎらめなぃやなぃな。ひでりさ一年かがたど思たらいがべ。」
農民四「全体、みんな同じ陸稲だったがら悪がったもな。ほがのものもあれば、治る人もあったんだとも。あっはっは。」

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