になってしまひました。すると四郎が決心して云ひました。
「ね、喰べよう。お喰べよ。僕は紺三郎さんが僕らを欺《だま》すなんて思はないよ。」そして二人は黍団子をみんな喰べました。そのおいしいことは頬《ほ》っぺたも落ちさうです。狐の学校生徒はもうあんまり悦《よろこ》んでみんな踊りあがってしまひました。
 キックキックトントン、キックキックトントン。
 「ひるはカンカン日のひかり
  よるはツンツン月あかり、
  たとへからだを、さかれても
  狐の生徒はうそ云ふな。」
 キック、キックトントン、キックキックトントン。
 「ひるはカンカン日のひかり
  よるはツンツン月あかり
  たとへこゞえて倒れても
  狐の生徒はぬすまない。」
 キックキックトントン、キックキックトントン。
 「ひるはカンカン日のひかり
  よるはツンツン月あかり
  たとへからだがちぎれても
  狐の生徒はそねまない。」
 キックキックトントン、キックキックトントン。
 四郎もかん子もあんまり嬉《うれ》しくて涙がこぼれました。
 笛がピーとなりました。
『わなを軽べつすべからず』と大きな字がうつりそれが消えて絵がうつりました。狐のこん兵衛《べゑ》がわなに左足をとられた景色です。
 「狐《きつね》こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛《べゑ》が
  左の足をわなに入れ、こんこんばたばた
                こんこんこん。」
とみんなが歌ひました。
 四郎がそっとかん子に云ひました。
「僕の作った歌だねい。」
 絵が消えて『火を軽べつすべからず』といふ字があらはれました。それも消えて絵がうつりました。狐のこん助が焼いたお魚を取らうとしてしっぽに火がついた所です。
 狐の生徒がみな叫びました。
 「狐こんこん狐の子。去年狐のこん助が
  焼いた魚を取ろとしておしりに火がつき
                きゃんきゃんきゃん。」
 笛がピーと鳴り幕は明るくなって紺三郎が又出て来て云ひました。
「みなさん。今晩の幻燈はこれでおしまひです。今夜みなさんは深く心に留めなければならないことがあります。それは狐のこしらへたものを賢いすこしも酔はない人間のお子さんが喰べて下すったといふ事です。そこでみなさんはこれからも、大人になってもうそをつかず人をそねまず私共狐の今迄《いままで》の悪い評判をすっかり無くしてし
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