見えた。
署長はちょっとの間濁密をさがすなんてことをいやになってしまった、けれどもまた気を取り直してあの三角山の方へつゝじに足をとられたりしながら急いだ。実にあのペイントを塗った顔から黒い汗がぼとぼとに落ちてシャツを黄いろに染めたのだ。ところが三角山の上まで来ると思はず署長は息を殺した。すぐ下の谷間にちょっと見ると椎蕈《しひたけ》乾燥場のやうな形の可成《かなり》大きな小屋がたって煙突もあったのだ。そして殊にあやしいことは小屋がきっぱりうしろの崖にくっついて建ててあっておまけにその崖が柔らかな岩をわざと切り崩したものらしかった。たしかにその小屋の奥手から岩を切ってこさへた室《へや》があって大ていの仕事はそこでやってゐるらしく思はれた。これはもう余程の大きさだ。小さな酒屋ぐらゐのことはある、たしかにさっきの語《ことば》のとほり会社にちがひない、いったい誰々の仕事だらう、どうもあの村会議員はあやしい、巡査を借りてやって来て村の方とこっちと一ぺんに手を入れないと証拠があがらない、誰か来るかも知れない今日一日見てゐようと税務署長は頬杖《ほほづゑ》をついて見てゐた。するとまるで注文通り小屋の中か
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