「一里あるよ。」
「このみちを行っていゝんですか。」
「行けるよ。」
「それでは私山の方へ行って見ますからね、向ふにも係りの方がおいででせう。」
「居るよ。」
「ではさうしませう。こっちでいつまでも待ってるよりはどうせ行かなけぁいけないんだから。ではお邪魔さまでした、いまにまた伺ひます。」
署長は小さな組合の小屋を出た。少し行ったらみちが二つにわかれた。署長はちょっと迷ったけれども向ふから十五ばかりになる子供が草をしょって来るのを見て待ってゐて訊《き》いた。
「おい、椎蕈《しひたけ》山へはどう行くね。」
すると子供はよく聞えないらしく顔をかしげて眼を片っ方つぶって云った。
「どこね、会社へかね。」会社、さあ大変だと署長は思った。
「あゝ会社だよ。会社は椎蕈山とは近いんだらう。」
「ちがふよ。椎蕈山こっちだし会社ならこっちだ。」
「会社まで何里あるね。」
「一里だよ。」
「どうだらう。会社から毎日荷馬車の便りがあるだらうか。」
「三日に一度ぐらゐだよ。」
ふん、その会社は木材の会社でもなけぁ醋酸《さくさん》の会社でもない、途方もないことをしてやがる、行ってつかまへてしまふと署長はも
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