そう酒が呑みたくなったのでした。なぜならこの校長さんは樽《たる》こ先生といふあだ名で一ぺんに一升ぐらゐは何でもなかったのです。みんなはもちろん大賛成でうまいぞ、えらいぞ、と手をたゝいてほめたのでした。税務署長がまた見掛けの太ったざっくばらんらしい男でいかにも正直らしくみんなが怒るかも知れないなんといふことは気にもとめずどんどん云ひたいことを云ひました。実際それはひどい悪口もあってどうしてもみんなひどく怒らなければならない筈《はず》なのにも係はらずみんなはほんたうに面白さうに何べんも何べんも手を叩《たた》いたり笑ったりして聞いてゐました。
そのはじめの方をちゞめて見ますとこんな工合《ぐあひ》です。
「濁密をやるにしてもさ、あんまり下手なことはやってもらひたくないな。なぁんだ、味噌桶《みそをけ》の中に、醪《にごりざけ》を仕込んで上に板をのせて味噌を塗って置く、ステッキでつっついて見るとすぐ板が出るぢゃないか。廐《うまや》の枯草の中にかくして置く、いゝ馬だなあ、乳もしぼれるかいと云ふと顔いろを変へてゐる。
新らしい肥樽《こえだる》の中に仕込んで林の萱《かや》の中に置く。誰《たれ》かにこっ
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