れ、間もなく向うの山脈の頂に、ぱっと白いけむりのようなものが立ったとおもうと、もう西の方は、すっかり灰いろに暗くなりました。
 雪童子の眼は、鋭《するど》く燃えるように光りました。そらはすっかり白くなり、風はまるで引き裂《さ》くよう、早くも乾《かわ》いたこまかな雪がやって来ました。そこらはまるで灰いろの雪でいっぱいです。雪だか雲だかもわからないのです。
 丘の稜《かど》は、もうあっちもこっちも、みんな一度に、軋《きし》るように切るように鳴り出しました。地平線も町も、みんな暗い烟《けむり》の向うになってしまい、雪童子の白い影ばかり、ぼんやりまっすぐに立っています。
 その裂くような吼《ほ》えるような風の音の中から、
「ひゅう、なにをぐずぐずしているの。さあ降らすんだよ。降らすんだよ。ひゅうひゅうひゅう、ひゅひゅう、降らすんだよ、飛ばすんだよ、なにをぐずぐずしているの。こんなに急がしいのにさ。ひゅう、ひゅう、向うからさえわざと三人連れてきたじゃないか。さあ、降らすんだよ。ひゅう。」あやしい声がきこえてきました。
 雪童子はまるで電気にかかったように飛びたちました。雪婆んごがやってきたのです
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