「ひゆう、ひゆう、さあしつかりやるんだよ。なまけちやいけないよ。ひゆう、ひゆう。さあしつかりやつてお呉《く》れ。今日はここらは水仙月《すゐせんづき》の四日だよ。さあしつかりさ。ひゆう。」
雪婆んごの、ぼやぼやつめたい白髪《しらが》は、雪と風とのなかで渦になりました。どんどんかける黒雲の間から、その尖《とが》つた耳と、ぎらぎら光る黄金《きん》の眼も見えます。
西の方の野原から連れて来られた三人の雪童子も、みんな顔いろに血の気もなく、きちつと唇を噛《か》んで、お互|挨拶《あいさつ》さへも交はさずに、もうつづけざませはしく革むちを鳴らし行つたり来たりしました。もうどこが丘だか雪けむりだか空だかさへもわからなかつたのです。聞えるものは雪婆《ゆきば》んごのあちこち行つたり来たりして叫ぶ声、お互の革鞭《かはむち》の音、それからいまは雪の中をかけあるく九疋《くひき》の雪狼どもの息の音ばかり、そのなかから雪童子《ゆきわらす》はふと、風にけされて泣いてゐるさつきの子供の声をききました。
雪童子の瞳《ひとみ》はちよつとをかしく燃えました。しばらくたちどまつて考へてゐましたがいきなり烈《はげ》しく鞭
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