ギラのお日さまがお登りになりました。今朝は青味がかつて一そう立派です。日光は桃いろにいつぱいに流れました。雪狼は起きあがつて大きく口をあき、その口からは青い焔《ほのほ》がゆらゆらと燃えました。
「さあ、おまへたちはぼくについておいで。夜があけたから、あの子どもを起さなけあいけない。」
 雪童子は走つて、あの昨日の子供の埋《うづ》まつてゐるとこへ行きました。
「さあ、ここらの雪をちらしておくれ。」
 雪狼どもは、たちまち後足で、そこらの雪をけたてました。風がそれをけむりのやうに飛ばしました。
 かんじきをはき毛皮を着た人が、村の方から急いでやつてきました。
「もういゝよ。」雪童子は子供の赤い毛布《けつと》のはじが、ちらつと雪から出たのをみて叫びました。
「お父さんが来たよ。もう眼をおさまし。」雪わらすはうしろの丘にかけあがつて一本の雪けむりをたてながら叫びました。子どもはちらつとうごいたやうでした。そして毛皮の人は一生けん命走つてきました。



底本:「宮沢賢治全集 8」ちくま文庫、筑摩書房
   1986(昭和61)年1月28日第1刷発行
入力:あきら
校正:伊藤時也
2003年4月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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