けなくなってしまひさう
けれどもさういふいたやの下は
みな黒緑のいぬがやで
それに谷中申し分ないいゝ石ばかり
何たるうつくしい漢画的装景であるか
もっとこゝらでかんかんとして
山気なり嵐気なり吸ってゐるには
なかなか精神的修養などではだめであって
まづ肺炎とか漆かぶれとかにプルーフな
頑健な身体が要るのである
それにしても
うすむらさきにべにいろなのを
こんなにまっかうから叩きつけて
素人をおどすといふのは
誰の仕事にしてもいゝ事でないな
[#改ページ]
三七四 河原坊(山脚の黎明)
[#地付き]一九二五、八、一一、
わたくしは水音から洗はれながら
この伏流の巨きな大理石の転石に寝よう
それはつめたい卓子だ
じつにつめたく斜面になって稜もある
ほう、月が象嵌されてゐる
せいせい水を吸ひあげる
楢やいたやの梢の上に
匂やかな黄金の円蓋を被って
しづかに白い下弦の月がかかってゐる
空がまた何とふしぎな色だらう
それは薄明の銀の素質と
夜の経紙の鼠いろとの複合だ
さうさう
わたくしはこんな斜面になってゐない
も少し楽なねどこをさがし出さう
あるけば山の石原の昧爽
こゝに平らな石があ
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