げいては
その子と孫にあざけられ
死にの床では誰ひとり
たゞ安らかにその道を
行けと云はれぬ嫗のために
  ……水音とホップのかをり
    青ぐらい峡の月光……
おまへのいまだに頑是なく
赤い毛糸のはっぴを着せた
まなこつぶらな童子をば
舞台の雪と青いあかりにしばらく貸せと
  ……ほのかにしろい並列は
    達曾部川の鉄橋の脚……
そこではしづかにこの国の
古い和讃の海が鳴り
地蔵菩薩はそのかみの、
母の死による発心を、
眉やはらかに物がたり
孝子は誨へられたるやうに
無心に両手を合すであらう
     (菩薩威霊を仮したまへ)
ぎざぎざの黒い崖から
雪融の水が崩れ落ち
種山あたり雲の蛍光
雪か雲かの変質が
その高原のしづかな頂部で行はれる
  ……まなこつぶらな童子をば
    しばらくわれに貸せといふ……
いまシグナルの暗い青燈
[#改ページ]

  五〇八  発電所
[#地付き]一九二五、四、二、

鈍った雪をあちこち載せる
鉄やギャプロの峯の脚
二十日の月の錫のあかりを
わづかに赤い落水管と
ガラスづくりの発電室と
  ……また余水吐の青じろい滝……
くろい蝸牛水車《スネ
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