稲沼原の二月ころ……
なめらかででこぼこの窓硝子は
しろく澱んだ雪ぞらと
ひょろ長い松とをうつす
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四一一 未来圏からの影
[#地付き]一九二五、二、一五、
吹雪《フキ》はひどいし
けふもすさまじい落磐
……どうしてあんなにひっきりなし
凍った汽笛《フエ》を鳴らすのか……
影や恐ろしいけむりのなかから
蒼ざめてひとがよろよろあらはれる
それは氷の未来圏からなげられた
戦慄すべきおれの影だ
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四一五
[#地付き]一九二五、二、一五、
暮れちかい
吹雪の底の店さきに
萌黄いろしたきれいな頸を
すなほに伸ばして吊り下げられる
小さないちはの家鴨の子
……屠者はおもむろに呪し
鮫の黒肉《み》はわびしく凍る……
風の擦過の向ふでは
にせ巡礼の鈴の音
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四一九 奏鳴的説明
[#地付き]一九二五、二、一五、
雲もぎらぎらにちぢれ
木が還《げん》照のなかから生えたつとき
翻へったり砕けたり或は全い空明を示したり
吹雪はかがやく流沙のごとくに
地平はるかに移り行きます
それはあやしい火にさへなって
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