ころにかけたりなんかしてゐると
あんな遠くのうす墨いろの野原まで
葉擦れの音も聞えてゐたし
どこからどんな苦情が来ないもんでない
だいいちそうら
そうら あんなに
苗代の水がおはぐろみたいに黒くなり
畦に植わった大豆《まめ》もどしどし行列するし
十三日のけぶった月のあかりには
十字になった白い暈さへあらはれて
空も魚の眼球《めだま》に変り
いづれあんまり碌でもないことが
いくらもいくらも起ってくる
おまへは底びかりする北ぞらの
天河石《アマゾンストン》のところなんぞにうかびあがって
風をま喰《くら》ふ野原の慾とふたりづれ
威張って稲をかけてるけれど
おまへのだいじな女房は
地べたでつかれて酸乳みたいにやはくなり
口をすぼめてよろよろしながら
丸太のさきに稲束をつけては
もひとつもひとつおまへへ送り届けてゐる
どうせみんなの穫れない歳を
逆に旱魃《ひでり》でみのった稲だ
もういゝ加減区劃りをつけてはねおりて
鳥が渡りをはじめるまで
ぐっすり睡るとしたらどうだ
[#改ページ]
三二〇 ローマンス(断片)
[#地付き]一九二四、一〇、一二、
ぼくはもいちど見て来ますから
あなたはこ
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