ない条件ぞろひ
  ……ひかって華奢にひるがへるのは何鳥だ……
水いろのそら白い雲
すっかりアカシヤづくりになった
  ……こんどは蝉の瓦斯発動機《ガスエンヂン》が林をめぐり
    日は青いモザイクになって揺めく……
鳥はどこかで
青じろい尖舌《シタ》を出すことをかんがへてるぞ
      (おお栗樹《カスタネア》 花|謝《お》ちし
       なれをあさみてなにかせん)
  ……ても古くさいスペクトル!
    飾禾草《オーナメンタルグラス》の穂!……
風がにはかに吹きだすと
暗い虹だの顫へるなみが
息もつけなくなるくらゐ
そこらいっぱいひかり出す
それはちひさな蜘蛛の巣だ
半透明な緑の蜘蛛が
森いっぱいにミクロトームを装置して
虫のくるのを待ってゐる
にもかゝはらず虫はどんどん飛んでゐる
あのありふれた百が単位の羽虫の輩が
みんな小さな弧光燈《アークライト》といふやうに
さかさになったり斜めになったり
自由自在に一生けんめい飛んでゐる
それもああまで本気に飛べば
公算論のいかものなどは
もう誰にしろ持ち出せない
むしろ情に富むものは
一ぴきごとに伝記を書くといふかもしれん
  
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