あゝ東方の普賢菩薩よ
微かに神威を垂れ給ひ
曾つて説かれし華厳のなか
仏界形円きもの
形花台の如きもの
覚者の意志に住するもの
衆生の業にしたがふもの
この星ぞらに指し給へ
……点々白い伐株と
まがりくねった二本のかつら……
ひとすぢ蜘蛛の糸ながれ
ひらめく萱や
月はいたやの梢にくだけ
木影の窪んで鉛の網を
わくらばのやうに飛ぶ蛾もある
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一八一 早池峰山巓
[#地付き]一九二四、八、一七、
あやしい鉄の隈取りや
数の苔から彩られ
また捕虜岩《ゼノリス》の浮彫と
石絨の神経を懸ける
この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
釣鐘人蔘《ブリューベル》のいちいちの鐘もふるへる
みんなは木綿《ゆふ》の白衣をつけて
南は青いはひ松のなだらや
北は渦巻く雲の髪
草穂やいはかがみの花の間を
ちぎらすやうな冽たい風に
眼もうるうるして息《い》吹きながら
踵《くびす》を次いで攀ってくる
九旬にあまる旱天《ひでり》つゞきの焦燥や
夏蚕飼育の辛苦を了へて
よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
たゞいっしんに登ってくる
……向ふではあたらしいぼ
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