こへ行ってしまったかわからないことが
なんといふいゝことだらう……
かなしさは空明から降り
黒い鳥の鋭く過ぎるころ
秋の鮎のさびの模様が
そらに白く数条わたる
[#改ページ]
一七九
[#地付き]一九二四、八、一七、
北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざ黒い嶺線が
手にとるやうに浮いてゐて
幾すぢ白いパラフ※[#小書き片仮名ヰ、391−6]ンを
つぎからつぎと噴いてゐる
そこにもくもく月光を吸ふ
蒼くくすんだ海綿体《カステーラ》
萱野十里もをはりになって
月はあかるく右手の谷に南中し
みちは一すぢしらしらとして
椈の林にはひらうとする
……あちこち白い楢の木立と
降るやうな虫のジロフォン……
橙いろと緑との
花粉ぐらゐの小さな星が
互にさゝやきかはすがやうに
黒い露岩の向ふに沈み
山はつぎつぎそのでこぼこの嶺線から
パラフ※[#小書き片仮名ヰ、392−5]ンの紐をとばしたり
突然銀の挨拶を
上流《かみ》の仲間に抛げかけたり
Astilbe argentium
Astilbe platinicum
いちいちの草穂の影さへ落ちる
この清澄な昧爽ちかく
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