思睡を翳す)
   南の松の林から
   なにかかすかな黄いろのけむり
(こっちのみちがいゝぢゃあないの)
(をかしな鳥があすこに居る!)
(どれだい)
   稲草が魔法使ひの眼鏡で見たといふふうで
   天があかるい孔雀石板で張られてゐるこのひなか
   川を見おろす高圧線に
   まこと思案のその鳥です
(ははあ、あいつはかはせみだ
 翡翠《かはせみ》さ めだまの赤い
 あゝミチア、今日もずゐぶん暑いねえ)
(何よ ミチアって)
(あいつの名だよ
 ミの字はせなかのなめらかさ
 チの字はくちのとがった工合
 アの字はつまり愛称だな)
(マリアのアの字も愛称なの?)
(ははは、来たな
 聖母はしかくののしりて
 クリスマスをば待ちたまふだ)
(クリスマスなら毎日だわ
 受難日だって毎日だわ
 あたらしいクリストは
 千人だってきかないから
 万人だってきかないから)
(ははあ こいつは…… )
   まだ魚狗《かはせみ》はじっとして
   川の青さをにらんでゐます
(……ではこんなのはどうだらう
 あたいの兄貴はやくざもの と)
(それなによ)
(まあ待って
 あたいの兄貴はやくざも
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