ゐます
やすんでこゝらをながめてゐます
ずうっと遠くの崩れる風のあたりでは
草の実を啄むやさしい鳥が
かすかにごろごろ鳴いてゐます
このとき銀いろのけむりを吐き
こゝらの空気を楔のやうに割きながら
急行列車が出て来ます
ずゐぶん早く走るのですが
車がみんなまはってゐるのは見えますので
さっきの頬の赤いはだしの子どもは
稲草の縄をうしろでにもって
汽車の足だけ見て居ます
その行きすぎた黒い汽車を
この国にむかしから棲んでゐる
三本鍬をかついだ巨きな人が
にがにが笑ってじっとながめ
それからびっこをひきながら
線路をこっちへよこぎって
いきなりぽっかりなくなりますと
あとはまた水がころころ鳴って
馬がもりもり噛むのです
[#改ページ]
一〇六
[#地付き]一九二四、五、一八、
日はトパースのかけらをそゝぎ
雲は酸敗してつめたくこごえ
ひばりの群はそらいちめんに浮沈する
(おまへはなぜ立ってゐるか
立ってゐてはいけない
沼の面にはひとりのアイヌものぞいてゐる)
一本の緑天鵞絨の杉の古木が
南の風にこごった枝をゆすぶれば
ほのかに白い昼の蛾は
そのたよりない
前へ
次へ
全106ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング