防雪林を
淡い客車の光廓が
音なく北へかけぬける
   ……火は南でも燃えてゐる
     ドルメンまがひの花崗岩《みかげ》を載せた
     千尺ばかりの準平原が
     あっちもこっちも燃えてるらしい
     〈古代神楽を伝へたり
      古風に公事をしたりする
      大|償《つぐなひ》や八木巻へんの
      小さな森林消防隊〉……
蛙は遠くでかすかにさやぎ
もいちどねぐらにはばたく鳥と
星のまはりの青い暈《かさ》
   ……山火はけぶり 山火はけぶり……
半霄くらい稲光りから
わづかに風が洗はれる
[#改ページ]

  九〇
[#地付き]一九二四、五、六、

祠の前のちしゃのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた氷雲の底で
鐚《びた》のかたちの粉苔をつける
   ……鳥はコバルト山に翔け……
二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
樹はこの夏の計
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