すみ》すごを
地蔵菩薩の龕《がん》かなにかのやうに負ひ
山の襞もけぶってならび
堰堤《ダム》もごうごう激してゐた
あの山岨のみぞれのみちを
あなたがひとり走ってきて
この町行きの貨物電車にすがったとき
その木炭《すみ》すごの萱の根は
秋のしぐれのなかのやう
もいちど紅く燃えたのでした
   ……雨はすきとほってまっすぐに降り
     雪はしづかに舞ひおりる
     妖《あや》しい春のみぞれです……
みぞれにぬれてつつましやかにあなたが立てば
ひるの電燈は雪ぞらに燃え
ぼんやり曇る窓のこっちで
あなたは赤い捺染ネルの一きれを
エヂプト風にかつぎにします
   ……氷期の巨きな吹雪の裔《すゑ》は
     ときどき町の瓦斯燈を侵して
     その住民を沈静にした……
わたくしの黒いしゃっぽから
つめたくあかるい雫が降り
どんよりよどんだ雪ぐもの下に
黄いろなあかりを点じながら
電車はいっさんにはしります
[#改ページ]

  二九  休息
[#地付き]一九二四、四、四、

中空《なかぞら》は晴れてうららかなのに
西|嶺《ね》の雪の上ばかり
ぼんやり白く淀むのは
水晶球の※[#「さんず
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