湿田《ヒドロ》の方には
朝の氷の骸晶が
まだ融けないでのこってゐても
高常水車の西側から
くるみのならんだ崖のした
地蔵堂の巨きな杉まで
乾田《カタタ》の雪はたいてい消えて
青いすずめのてっぱうも
空気といっしょにちらちら萌える
みちはやはらかな湯気をあげ
白い割木の束をつんで
次から次と町へ行く馬のあしなみはひかり
その一つの馬の列について来た黄いろな二ひきの犬は
尾をふさふさした大きなスナップ兄弟で
ここらの犬と、
はげしく走って好意を交はす
今日を彼岸の了りの日
雪消の水に種籾をひたし
玉麩を買って羹をつくる
こゝらの古い風習である
[#改ページ]

  二一  痘瘡
[#地付き]一九二四、三、三〇、

日脚の急に伸びるころ
かきねのひばの冴えるころは
こゝらの乳いろの春のなかに
奇怪な紅教が流行する
[#改ページ]


  二五  早春独白
[#地付き]一九二四、三、三〇、

黒髪もぬれ荷縄もぬれて
やうやくあなたが車室に来れば
ひるの電燈は雪ぞらにつき
窓のガラスはぼんやり湯気に曇ります
   ……青じろい磐のあかりと
     暗んで過ぎるひばのむら……
身丈にちかい木炭《
前へ 次へ
全106ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング