り、
 くるっと巻いたりするんだな
 誰かはんけちを、水でしぼってもっといで
 あっあっ沼の水ではだめだ、
 あすこでことこと云ってゐる
 タンクの脚でしぼっておいで
 ぜんたい星葉木なんか
 もう絶滅してゐる筈なんだが
 どこにいったいあるんだらう
 なんでも風の上だから
 あっちの方にはちがひないが)
  そっちの方には星葉木のかたちもなくて、
  手近に五本巨きなドロが
  かゞやかに日を分劃し
  わずかに風にゆれながら
  枝いっぱいに硫黄の粒を噴いてゐます
(先生、はんけち)
(ご苦労、ご苦労
 ではこれを口へあてて
 しづかに四五へん息をして さうさう
 えへんとひとつしてごらん
 もひとつえへん さう、どうだい)
(あゝ助かった
 先生どうもありがたう)
(ギルダちゃん おめでたう)
(ギルダちゃん おめでたう)
  ベーリング行XZ号の列車は
  いま触媒の白金を噴いて、
  線路に沿った黄いろな草地のカーペットを
  ぶすぶす黒く焼き込みながら
  梃々として走って来ます
[#改ページ]

  一九一  風と杉
[#地付き]一九二四、九、六、

杉のいちいちの緑褐の房に
まばゆい白い空がかぶさり
蜂《すがる》は熱いまぶたをうなり
風が吹けば白い建物
  ……一つの汽笛の Cork−screw ……
銀や痛みやさびしく口をつぐむひと
  ……それはわたしのやうでもある
    白金の毛あるこのけだもののまばゆい焦点……
半分溶けては雀が通り
思ひ出しては風が吹く
  ……どうもねむられない……
      (そらおかあさんを
       ねむりのなかに入れておあげ……)
杉の葉のまばゆい残像
ぽつんと白い銀の日輪
  ……まぶたは熱くオレンヂいろの火は燃える……
      (せめて地獄の鬼になれ)
  ……わたくしの唇は花のやうに咲く……
もいちどまばゆい白日輪
       :
       :
       :
      (ブレンカア)
      (こいづ葡萄だな)
  ……うす赤や黄金……
      (おい仕事わたせ
       おれの仕事わたせ)
       :
       :
       :
  朱塗のらんかん
      (百姓ならべつの仕事もあるだらう
       君はもうほんとにこゝに
       ひとをばかにして立ってゐるだけだ)
南に向いた銅いろの上半身
髪はちゞれて風にみだれる
印度の力士といふ風だ
それはその巨きな杉の樹神だらうか
あるいは風のひとりだらうか
[#改ページ]

  一九八  雲
[#地付き]一九二四、九、九、

いっしゃうけんめいやってきたといっても
ねごとみたいな
にごりさけみたいなことだ
  ……ぬれた夜なかの焼きぼっ杭によっかかり……
おい きゃうだい
へんじしてくれ
そのまっくろな雲のなかから
[#改ページ]

  一九五  塚と風
[#地付き]一九二四、九、一〇、

          ……わたくしに関して一つの塚とこゝを通過する風とが
            あるときこんなやうな存在であることを示した……

この人ぁくすぐらへでぁのだもなす
  たれかが右の方で云ふ
  髪を逆立てた印度の力士ふうのものが
  口をゆがめ眼をいからせて
  一生けんめいとられた腕をもぎはなし
  東に走って行かうとする
  その肩や胸には赤い斑点がある

  後光もあれば鏡もあり
  青いそらには瓔珞もきらめく

  子どもに乳をやる女
  その右乳ぶさあまり大きく角だって
  いちめん赤い痘瘡がある

  掌のなかばから切られた指
  これはやっぱりこの塚のだらうか
  わたくしのではない
柳沢さんのでなくてまづ好がった

  袴をはいた烏天狗だ
  や、西行、
上……見……る……に……は……及……ば……な……い……
や……っ……ぱ……り……下……見……る……の……だ
  呟くやうな水のこぼこぼ鳴るやうな

  私の考と阿部孝の考とを
  ちゃうど神楽の剣舞のやうに
  対称的に双方から合せて
そのかっぽれ 学校へ来んかなと云ったのだ

  こどもが二人母にだかれてねむってゐる
いぢめてやりたい
いぢめてやりたい
いぢめてやりたい
   誰かが泣いて云ひながら行きすぎる
[#改ページ]

  一九六
[#地付き]九、一〇、

かぜがくれば
ひとはダイナモになり
  ……白い上着がぶりぶりふるふ……
木はみな青いラムプをつるし
雲は尾をひいてはせちがひ
山はひとつのカメレオンで
藍青やかなしみや
いろいろの色素粒が
そこにせはしく出没する
[#改ページ]

  三〇一  秋と負債
[#地付き]一九二四、九、一六、

半穹二グロスからの電燈が
おもひおもひ
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