》ぐなぃもな。盆《ぼん》の十六日ぁ遊《あそ》ばなぃばつまらなぃ。おれ云ったなみんなうそさ。な。それでもああいうきれいな男うなだて好《す》ぎだべ。)(好かなぃ。)おみちが甘《あま》えるように云った。
(好ぎたって云ったらおれごしゃぐど思うが。そのこらぃなごと云ってごしゃぐような水臭《みずくさ》ぃおらだなぃな。誰《だれ》だってきれいなものすぎさな。おれだって伊手《いで》ででもいいあねこ見ればその話だてするさ。あのあんこだて好《す》ぎだべ。好ぎだて云え。こう云うごとほんと云うごそ実《じつ》ぁあるづもんだ。な。好ぎだべ。)おみちは子供《こども》のようにうなずいた。嘉吉はまだくしゃくしゃ泣《な》いておどけたような顔をしたおみちを抱《だ》いてこっそり耳へささやいた。(そだがらさ、あのあんこ肴《さかな》にして今日ぁ遊ぶべじゃい。いいが。おれあのあんこうなさ取《と》り持《も》づ。大丈夫《だいじょうぶ》だでばよ。おれこれがら出掛《でか》げて峠《とうげ》さ行ぐまでに行ぎあって今夜の踊《おど》り見るべしてすすめるがらよ、なあにどごまで行がなぃやなぃようだなぃがけな。そして踊り済《す》まってがら家さ連《つ》れで来ておれ実家《じっか》さ行って泊《とま》って来るがらうなこっちで泣いて頼《たの》んでみなよ。おれの妹だって云えばいいがらよ。そしてさ出来ればよ、うなも町さ出はてもうんといい女子だづごともわがら。)
 おみちの胸《むね》はこの悪魔《あくま》のささやきにどかどか鳴った。それからいきなり嘉吉《かきち》をとび退《の》いて、
(何云うべ、この人あ、人ばがにして。)そして爽《さわや》かに笑《わら》った。嘉吉もごろりと寝《ね》そべって天井《てんじょう》を見ながら何べんも笑った。そこでおみちははじめて晴れ晴れじぶんの拵《こしら》えた寒天《かんてん》もたべた。餅《もち》もたべた。キャラメルの箱《はこ》と敷島《しきしま》は秋らしい日光のなかにしずかに横《よこた》わった。



底本:「ポラーノの広場」角川文庫、角川書店
   1996(平成8)年6月25日初版発行
底本の親本:「新校本 宮澤賢治全集」筑摩書房
   1995(平成7)年5月
入力:ゆうき
校正:noriko saito
2009年8月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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