爺※[#小書き平仮名ん、151−4]ごど、爺※[#小書き平仮名ん、151−4]ご取っ換《か》ぇだらいがべじゃぃ。取っ換ぇなぃどが。」嘉ッコがこれを云うか云わないにウンと云うくらいひどく耳をひっぱられました。見ると嘉ッコのおじいさんがけらを着て章魚《たこ》のような赤い顔をして嘉ッコを上から見おろしているのでした。
「なにしたど。爺※[#小書き平仮名ん、151−8]ご取っ換ぇるど。それよりもうなのごと山山のへっぴり伯父《おじ》さ呉《け》でやるべが。」
「じさん、許せゆるせ、取っ換ぇなぃはんて、ゆるせ。」嘉ッコは泣きそうになってあやまりました。そこでじいさんは笑って自分も豆を抜きはじめました。

        *

 火は赤く燃えています。けむりは主におじいさんの方へ行きます。
 嘉ッコは、黒猫《くろねこ》をしっぽでつかまえて、ギッと云うくらいに抱《だ》いていました。向う側ではもう学校に行っている嘉ッコの兄さんが、鞄《かばん》から読本《とくほん》を出して声を立てて読んでいました。
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「松を火にたくいろりのそばで
 よるはよもやまはなしがはずむ
 母が手ぎわのだいこんなます
 これがいなかのとしこしざかな。第十三課……。」
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「何したど。大根なますだど。としこしざがなだど。あんまりけづな書物だな。」とおじいさんがいきなり云いました。そこで嘉ッコのお父さんも笑いました。
「なあにこの書物ぁ倹約《けんやく》教えだのだべも。」
 ところが嘉ッコの兄さんは、すっかり怒ってしまいました。そしてまるで泣き出しそうになって、読本を鞄にしまって、
「嘉ッコ、猫ぉおれさ寄越《よこ》せじゃ。」と云いました。
「わがなぃんちゃ。厭《や》んた※[#小書き平仮名ん、152−9]ちゃ。」と嘉ッコが云いました。
「寄越せったら、寄越せ。嘉ッコぉ。わあい。寄越せじゃぁ。」
「厭《や》※[#小書き平仮名ん、152−11]たぁ、厭※[#小書き平仮名ん、152−11]たぁ、厭※[#小書き平仮名ん、152−11]たったら。」
「そだら撲《は》だぐじゃぃ。いいが。」嘉ッコの兄さんが向うで立ちあがりました。おじいさんがそれをとめ、嘉ッコがすばやく逃げかかったとき、俄《にわか》に途方《とほう》もない、空の青セメントが一ぺんに落ちたというようなガタアッという音がして家はぐら
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