ました。
「アッハッハ、ばさん。天の邪鬼の小便ぁたまげだ永ぃな。」
「永ぃてさ、天の邪鬼ぁいっつも小便、垂れ通しさ。」とおばあさんはすまして云いながら又《また》豆を抜きました。嘉ッコは呆《あき》れてぼんやりとむしろに座りました。
 お日さまはうすい白雲にはいり、黒い鳥が高く高く環《わ》をつくっています。その雲のこっち、豆の畑の向うを、鼠色《ねずみいろ》の服を着て、鳥打をかぶったせいのむやみに高い男が、なにかたくさん肩にかついで大股《おおまた》に歩いて行きます。
「兵隊さん。」善コが叫びながらそっちへかけ出しました。
「兵隊さ※[#小書き平仮名ん、150−3]だなぃ。鉄砲《てっぽう》持ってなぃぞ。」嘉ッコも走りながら云いました。
「兵隊さん。」善コが又叫びました。
「兵隊さんだなぃ。鉄砲持ってなぃぞ。」けれどもその時は二人はもう旅人の三間ばかりこっちまで来ていました。
「兵隊さん。」善コは又叫んでからおかしな顔をしてしまいました。見るとその人は赤ひげで西洋人なのです。おまけにその男が口を大きくして叫びました。
「グルルル、グルウ、ユー、リトル、ラズカルズ、ユー、プレイ、トラウント、ビ、オッフ、ナウ、スカッド、アウエイ、テゥ、スクール。」
 と雷《かみなり》のような声でどなりました。そこで二人はもうグーとも云わず、まん円になって一目散に逃《に》げました。するとうしろではいかにも面白《おもしろ》そうに高く笑う声がします。向うの方ではお母さんたちが心配そうに手をかざしてこっちを見ていましたが、やがて一寸おじぎをしました。二人は振《ふ》り返って見ますとその鼠色の旅人も笑いながら帽子《ぼうし》をとっておじぎをして居《お》りました。そして又大股に向うに歩いて行ってしまいました。
 お日さまが又かっと明るくなり、二人はむしろに座ってひばりもいないのに、
「ひばり焼げこ、ひばりこんぶりこ、」なんて出鱈目《でたらめ》なひばりの歌を歌っていました。
 そのうちに嘉ッコがふと思い出したように歌をやめて、一寸顔をしかめましたが、俄かに云いました。
「じゃ、うなぃの爺《じ》※[#小書き平仮名ん、151−2]ごぁ、酔ったぐれだが。」
「うんにゃ、おれぁの爺※[#小書き平仮名ん、151−3]ごぁ酔ったぐれだなぃ。」善コが答えました。
「そだら、うなぃの爺※[#小書き平仮名ん、151−4]ごど俺ぁの
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