つかみかかりました。山男はまんまるになって一生けん命|遁《に》げました。ところがいくら走ろうとしても、足がから走りということをしているらしいのです。とうとうせなかをつかまれてしまいました。
「助けてくれ、わあ、」と山男が叫《さけ》びました。そして眼をひらきました。みんな夢《ゆめ》だったのです。
 雲はひかってそらをかけ、かれ草はかんばしくあたたかです。
 山男はしばらくぼんやりして、投げ出してある山鳥のきらきらする羽をみたり、六神丸の紙箱《かみばこ》を水につけてもむことなどを考えていましたがいきなり大きなあくびをひとつして言いました。
「ええ、畜生、夢のなかのこった。陳も六神丸もどうにでもなれ。」
 それからあくびをもひとつしました。



底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
   1990(平成2)年5月25日発行
   1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
   1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年2月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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