で、種山剣舞連と大きく書いた沢山の提灯《ちゃうちん》に囲まれて、みんなと町へ踊りに行ったのだ。ダー、ダー、ダースコ、ダー、ダー。踊ったぞ、踊ったぞ。町のまっ赤な門火の中で、刀をぎらぎらやらかしたんだ。楢夫《ならを》さんと一緒になった時などは、刀がほんたうにカチカチぶっつかった位だ。
ホウ、そら、やれ、
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むかし 達谷《たっこく》の 悪路王《あくろわう》、
まっくらぁくらの二里の洞《ほら》、
渡るは 夢と 黒夜神《こくやじん》、
首は刻まれ 朱桶《しゅをけ》に埋もれ。
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やったぞ。やったぞ。ダー、ダー、ダースコ、ダーダ、
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青い 仮面《めん》この こけおどし、
太刀《たち》を 浴びては いっぷかぷ、
夜風の 底の 蜘蛛《くも》をどり、
胃袋ぅ はいて ぎったりぎたり。
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ほう。まるで、……。)
「達二。居るが。達二。」達二のお母さんが家の中で呼びました。
「あん、居る。」達二は走って行きました。
「善い童《わらす》だはんてな、おぢぃさんど、兄《あい》な[#「な」は小書き]ど、上の原のすぐ上り口で、草刈ってるがら、弁当持って行って来《こ》。な。それがら牛も連れてって、草|食《か》ぁせで来《こ》。な。兄な[#「な」は小書き]がら離れなよ。」
「あん、行《い》て来る。行て来る。今|草鞋《わらぢ》穿《は》ぐがら。」達二ははねあがりました。
お母さんは、曲げ物の二つの櫃《ひつ》と、達二の小さな弁当とをいくつか紙にくるんで、それをみんな一緒に大きな布の風呂敷《ふろしき》に包み込みました。そして、達二が支度をして包みを背負ってゐる間に、おっかさんは牛をうまやから追ひ出しました。
「そだら行って来ら。」と達二は牛を受け取って云ひました。
「気ぃ付けで行げ。上で兄《あい》な[#「な」は小書き]がら離れなよ。」
「あん。」達二は、垣根のそばから、楊《やなぎ》の枝を一本折り、青い皮をくるくる剥《は》いで鞭《むち》を拵《こしら》へ、静に牛を追ひながら、上の原への路《みち》をだんだんのぼって行きました。
「ダーダー、スコ、ダーダー。
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夜の頭巾《づきん》は 鶏《とり》の黒尾、
月のあかりは………、
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しっ、歩け、しっ。」
日がカンカン照ってゐました。
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