》って療《なお》すのでした。
天気のいい日に、嘉十も出かけて行きました。糧《かて》と味噌《みそ》と鍋《なべ》とをしょって、もう銀いろの穂《ほ》を出したすすきの野原をすこしびっこをひきながら、ゆっくりゆっくり歩いて行ったのです。
いくつもの小流れや石原を越《こ》えて、山脈のかたちも大きくはっきりなり、山の木も一本一本、すぎごけのように見わけられるところまで来たときは、太陽はもうよほど西に外《そ》れて、十本ばかりの青いはんのきの木立の上に、少し青ざめてぎらぎら光ってかかりました。
嘉十は芝草《しばくさ》の上に、せなかの荷物をどっかりおろして、栃《とち》と粟とのだんごを出して喰《た》べはじめました。すすきは幾《いく》むらも幾むらも、はては野原いっぱいのように、まっ白に光って波をたてました。嘉十はだんごをたべながら、すすきの中から黒くまっすぐに立っている、はんのきの幹をじつにりっぱだとおもいました。
ところがあんまり一生けん命あるいたあとは、どうもなんだかお腹《なか》がいっぱいのような気がするのです。そこで嘉十も、おしまいに栃の団子をとちの実のくらい残しました。
「こいづば鹿《しか》さ
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