てたうたう手拭《てぬぐひ》のひと足《あし》こつちまで行《い》つて、あらんかぎり首《くび》を延《の》ばしてふんふん嚊《か》いでゐましたが、俄《には》かにはねあがつて遁《に》げてきました。みんなもびくつとして一ぺんに遁《に》げださうとしましたが、その一ぴきがぴたりと停《と》まりましたのでやつと安心《あんしん》して五つの頭《あたま》をその一つの頭《あたま》に集《あつ》めました。
「なぢよだた、なして逃《に》げで来《き》た。」
「噛《か》ぢるべとしたやうだたもさ。」
「ぜんたいなにだけあ。」
「わがらないな。とにかぐ白《しろ》どそれがら青《あを》ど、両方《りやうはう》のぶぢだ。」
「匂《にほひ》あなぢよだ、匂《にほひ》あ。」
「柳《やなぎ》の葉《は》みだいな匂《にほひ》だな。」
「はでな、息《いぎ》吐《つ》でるが、息《いぎ》。」
「さあ、そでば、気付《きつ》けないがた。」
「こんどあ、おれあ行《い》つて見《み》べが。」
「行《い》つてみろ」
三|番目《ばんめ》の鹿《しか》がまたそろりそろりと進《すゝ》みました。そのときちよつと風《かぜ》が吹《ふ》いて手拭《てぬぐひ》がちらつと動《うご》きました
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