やうにうたひだしてゐました。
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「ぎんがぎがの
すすぎの底《そこ》の日暮《ひぐ》れかだ
苔《こげ》の野《の》はらを
蟻《あり》こも行《い》がず。」
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このとき鹿《しか》はみな首《くび》を垂《た》れてゐましたが、六|番目《ばんめ》がにはかに首《くび》をりんとあげてうたひました。
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「ぎんがぎがの
すすぎの底《そご》でそつこりと
咲《さ》ぐうめばぢの
愛《え》どしおえどし。」
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鹿《しか》はそれからみんな、みぢかく笛《ふゑ》のやうに鳴《な》いてはねあがり、はげしくはげしくまはりました。
北《きた》から冷《つめ》たい風《かぜ》が来《き》て、ひゆうと鳴《な》り、はんの木《き》はほんたうに砕《くだ》けた鉄《てつ》の鏡《かゞみ》のやうにかゞやき、かちんかちんと葉《は》と葉《は》がすれあつて音《おと》をたてたやうにさへおもはれ、すすきの穂《ほ》までが鹿《しか》にまぢつて一しよにぐるぐるめぐつてゐるやうに見《み》えました。
嘉十《かじふ》はもうまつたくじぶんと鹿《しか》とのちがひを忘《わす》
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