ゃないの。」
「どれ、何だい、びくびくするない。あれは公爵のセロだよ。だまってついておいで。」
「こはいなあ、僕は。」
「いゝったら、おまへはぐづだねえ。」
赤狐はさっさと中へ入りました。仔牛も仕方なくついて行きました。ひひらぎの植込みの処《ところ》を通るとき狐の子は又青ぞらを見上げてタンと一つ舌を鳴らしました。仔牛はどきっとしました。
赤狐はわき玄関の扉《と》のとこでちょっとマットに足をふいてそれからさっさと段をあがって家の中に入りました。仔牛もびくびくしながらその通りしました。
「おい、お前の足はどうしてさうがたがた鳴るんだい。」赤狐は振り返って顔をしかめて仔牛をおどしました。仔牛ははっとして頸《くび》をちゞめながら、なあに僕は一向家の中へなんど入りたくないんだが、と思ひました。
「この室《へや》へはひって見よう。おい。誰か居たら遁《に》げ出すんだよ。」赤狐は身構へしながら扉をあけました。
「何だい。こゝは書物ばかりだい。面白くないや。」狐は扉をしめながら云ひました。支那《しな》の地理のことを書いた本なら見たいなあと仔牛は思ひましたがもう狐がさっさと廊下を行くもんですから仕方な
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