まわしながら
「お一二、お一二、」と号令をかけてやってくるのでした。
 じいさんに見られた柱は、まるで木のように堅《かた》くなって、足をしゃちほこばらせて、わきめもふらず進んで行き、その変なじいさんは、もう恭一のすぐ前までやってきました。そしてよこめでしばらく恭一を見てから、でんしんばしらの方へ向いて、
「なみ足い。おいっ。」と号令をかけました。
 そこででんしんばしらは少し歩調を崩《くず》して、やっぱり軍歌を歌って行きました。
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「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
 右とひだりのサアベルは
 たぐいもあらぬ細身なり。」
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 じいさんは恭一の前にとまって、からだをすこしかがめました。
「今晩は、おまえはさっきから行軍を見ていたのかい。」
「ええ、見てました。」
「そうか、じゃ仕方ない。ともだちになろう、さあ、握手《あくしゅ》しよう。」
 じいさんはぼろぼろの外套の袖《そで》をはらって、大きな黄いろな手をだしました。恭一もしかたなく手を出しました。じいさんが「やっ、」と云《い》ってその手をつかみました。
 するとじいさんの眼だまから、虎《とら》
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