でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなし
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。」
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一本のでんしんばしらが、ことに肩《かた》をそびやかして、まるでうで木もがりがり鳴るくらいにして通りました。
みると向うの方を、六本うで木の二十二の瀬戸もののエボレットをつけたでんしんばしらの列が、やはりいっしょに軍歌をうたって進んで行きます。
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「ドッテテドッテテ、ドッテテド
二本うで木の工兵隊
六本うで木の竜騎兵《りゅうきへい》
ドッテテドッテテ、ドッテテド
いちれつ一万五千人
はりがねかたくむすびたり」
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どういうわけか、二本のはしらがうで木を組んで、びっこを引いていっしょにやってきました。そしていかにもつかれたようにふらふら頭をふって、それから口をまげてふうと息を吐《つ》き、よろよろ倒《たお》れそうになりました。
するとすぐうしろから来た元気のいいはしらがどなりました。
「おい、はやくあるけ。はりがねがたるむじゃないか。」
ふたりはいかにも辛《つら》そうに、いっしょにこたえました。
「もうつかれてあるけない。あしさきが腐《くさ》り出したんだ。長靴《ながぐつ》のタールもなにももうめちゃくちゃになってるんだ。」
うしろのはしらはもどかしそうに叫《さけ》びました。
「はやくあるけ、あるけ。きさまらのうち、どっちかが参っても一万五千人みんな責任があるんだぞ。あるけったら。」
二人はしかたなくよろよろあるきだし、つぎからつぎとはしらがどんどんやって来ます。
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「ドッテテドッテテ、ドッテテド
やりをかざれるとたん帽《ぼう》
すねははしらのごとくなり。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
肩にかけたるエボレット
重きつとめをしめすなり。」
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二人の影《かげ》ももうずうっと遠くの緑青《ろくしょう》いろの林の方へ行ってしまい、月がうろこ雲からぱっと出て、あたりはにわかに明るくなりました。
でんしんばしらはもうみんな、非常なご機嫌《きげん》です。恭一の前に来ると、わざと肩をそびやかしたり、横めでわらったりして過ぎるのでした。
ところが愕《おど》ろいたことは、六本うで木のまた向うに、
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