た。汽缶車《きくわんしや》の石炭はまつ赤に燃えて、そのまへで火夫は足をふんばつて、まつ黒に立つてゐました。
ところが客車の窓がみんなまつくらでした。するとぢいさんがいきなり、
「おや、電燈が消えてるな。こいつはしまつた。けしからん。」と云ひながらまるで兎《うさぎ》のやうにせ中をまんまるにして走つてゐる列車の下へもぐり込みました。
「あぶない。」と恭一がとめようとしたとき、客車の窓がぱつと明るくなつて、一人の小さな子が手をあげて
「あかるくなつた、わあい。」と叫んで行きました。
でんしんばしらはしづかにうなり、シグナルはがたりとあがつて、月はまたうろこ雲のなかにはひりました。
そして汽車は、もう停車場へ着いたやうでした。
底本:「宮沢賢治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年1月28日第1刷発行
2004(平成16)年4月25日第20刷発行
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年2月21日作成
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