ほそくしてみると、まるで大きなお城があるやうにおもはれるのでした。
 とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶつて、上の白い横木を斜めに下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。
 つまりシグナルがさがつたといふだけのことです。一晩に十四《じふし》回もあることなのです。
 ところがそのつぎが大へんです。
 さつきから線路の左がはで、ぐわあん、ぐわあんとうなつてゐたでんしんばしらの列が大威張りで一ぺんに北のはうへ歩きだしました。みんな六《む》つの瀬戸もののエボレツトを飾り、てつぺんにはりがねの槍《やり》をつけた亜鉛《とたん》のしやつぽをかぶつて、片脚でひよいひよいやつて行くのです。そしていかにも恭一をばかにしたやうに、じろじろ横めでみて通りすぎます。
 うなりもだんだん高くなつて、いまはいかにも昔ふうの立派な軍歌に変つてしまひました。
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「ドツテテドツテテ、ドツテテド、
 でんしんばしらのぐんたいは
 はやさせかいにたぐひなし
 ドツテテドツテテ、ドツテテド
 でんしんばしらのぐんたいは
 きりつせかいにならびなし。」
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