てため息ばかりついています。そして気のいい火山弾は、だまってわらって居《お》りました。
 ひるすぎ、野原の向うから、又キラキラめがねや器械が光って、さっきの四人の学者と、村の人たちと、一台の荷馬車がやって参りました。
 そして、柏《かしわ》の木の下にとまりました。
「さあ、大切な標本だから、こわさないようにして呉《く》れ給《たま》え。よく包んで呉れ給え。苔《こけ》なんかむしってしまおう。」
 苔は、むしられて泣きました。火山弾はからだを、ていねいに、きれいな藁《わら》や、むしろに包まれながら、云いました。
「みなさん。ながながお世話でした。苔さん。さよなら。さっきの歌を、あとで一ぺんでも、うたって下さい。私の行くところは、ここのように明るい楽しいところではありません。けれども、私共は、みんな、自分でできることをしなければなりません。さよなら。みなさん。」
「東京帝国大学校地質学教室行、」と書いた大きな札《ふだ》がつけられました。
 そして、みんなは、「よいしょ。よいしょ。」と云いながら包みを、荷馬車へのせました。
「さあ、よし、行こう。」
 馬はプルルルと鼻を一つ鳴らして、青い青い向う
前へ 次へ
全10ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング