飛んで行くのでした。ジヨバンニは思はず窓からからだを半分出して、そつちを見あげました。
 美しい美しい桔梗いろのがらんとした空の下を、實に何萬といふ小さな鳥どもが幾組も幾組も、めいめいせはしくせはしく鳴いて通つて行くのでした。
「鳥が飛んで行くな。」ジヨバンニが窓の外で云ひました。
「どら。」カムパネルラもそらを見ました。
 そのときあのやぐらの上のゆるい服の男は、俄かに赤い旗をあげて狂氣のやうにふりうごかしました。するとぴたつと鳥の群は通らなくなり、それと同時にぴしやあんといふ潰れたやうな音が川下の方で起つて、それからしばらくしいんとしました。と思つたらあの赤帽の信號手がまた青い旗をふつて叫んでゐたのです。
「いまこそわたれわたり鳥、いまこそわたれわたり鳥。」その聲もはつきり聞えました。それといつしよにまた幾萬といふ鳥の群がそらをまつすぐにかけたのです。
 二人の顏を出してゐるまん中の窓からあの女の子が顏を出して、美しい頬をかがやかせながら大ぞらを仰ぎました。
「まあ、この鳥、たくさんですわねえ。あらまあそらのきれいなこと。」女の子はジヨバンニにはなしかけました。けれどもジヨバンニは
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