のはづれにしかゐないといふやうな氣がしてしかたなかつたのです。
 けれどもみんなはまだどこかの波の間から、
「ぼくずゐぶん泳いだぞ。」と云ひながらカムパネルラが出て來るか、或ひはカムパネルラがどこかの人の知らない洲にでも着いて立つてゐて、誰かの來るのを待つてゐるかといふやうな氣がして仕方ないらしいのでした。
 けれども俄かにカムパネルラのお父さんがきつぱり云ひました。
「もう駄目です。墜ちてから四十五分たちましたから。」
 ジヨバンニは思はずかけよつて、博士の前に立つて、ぼくはカムパネルラの行つた方を知つてゐます。ぼくはカムパネルラといつしよに歩いてゐたのです。と云はうとしましたが、もうのどがつまつて何とも云へませんでした。
 すると博士はジヨバンニが挨拶に來たとでも思つたものですか、しばらくしげしげとジヨバンニを見てゐましたが、
「あなたはジヨバンニさんでしたね。どうも今晩はありがたう。」と叮ねいに云ひました。
 ジヨバンニは何も云へずにただおじぎをしました。
「あなたのお父さんはもう歸つてゐますか。」博士は堅く時計を握つたまま、また聞きました。
「いいえ。」ジヨバンニはかすかに頭を
前へ 次へ
全90ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング