いい。そしてこれから何でもいつでも私のところへ相談においでなさい。」
「僕きつとまつすぐに進みます。きつとほんたうの幸福を求めます。」
 ジヨバンニは力強く云ひました。
「ああではさよなら。これはさつきの切符です。」
 博士は小さく折つた緑いろの紙を、ジヨバンニのポケツトに入れました。
 そしてもうそのかたちは天氣輪の柱の向うに見えなくなつてゐました。
 ジヨバンニはまつすぐに走つて丘をおりました。
 そしてポケツトが大へん重くカチカチ鳴るのに氣がつきました。林の中でとまつてそれをしらべて見ましたら、あの緑いろのさつき夢の中でみたあやしい天の切符の中に、大きな二枚の金貨が包んでありました。
「博士ありがたう、おつかさん。すぐ乳をもつて行きますよ。」
 ジヨバンニは叫んでまた走りはじめました。何かいろいろのものが一ぺんにジヨバンニの胸に集つて何とも云へずかなしいやうな親しいやうな氣がするのでした。

 琴の星がずうつと西の方へ移つてそしてまた夢のやうに足をのばしてゐました。



底本:「銀河鉄道の夜」岩波文庫、岩波書店
   1951(昭和26)年10月25日初版発行
   1962(昭和37)年3月30日第13刷発行
底本の親本:「宮澤賢治全集 第三卷」十字屋書店
入力:高柳典子
校正:土屋隆
2006年9月17日作成
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