るのでした。そして間もなく、あの汽車から見えたきれいな河原に來ました。
カムパネルラは、そのきれいな砂を一つまみ、掌にひろげ、指できしきしさせながら、夢のやうに云つてゐるのでした。
「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えてゐる。」
「さうだ。」どこでぼくは、そんなこと習つたらうと思ひながら、ジヨバンニもぼんやり答へてゐました。
河原の礫は、みんなすきとほつて、たしかに水晶や黄玉や、またくしやくしやの皺曲をあらはしたのや、また稜から霧のやうな青白い光を出す鋼玉やらでした。ジヨバンニは、走つてその渚に行つて、水に手をひたしました。けれどもあやしいその銀河の水は、水素よりももつとすきとほつてゐたのです。それでもたしかに流れてゐたことは、二人の手首の、水にひたしたところが、少し水銀いろに浮いたやうに見え、その手首にぶつつかつてできた波は、うつくしい燐光をあげて、ちらちらと燃えるやうに見えたのでもわかりました。
川上の方を見ると、すすきのいつぱいに生えている崖の下に、白い岩が、まるで運動場のやうに平らに川に沿つて出てゐるのでした。そこに小さな五六人の人かげが、何か掘り出すか埋めるかしてゐるらしく、立つたり屈んだり、時々なにかの道具が、ピカツと光つたりしました。
「行つてみよう。」二人は、まるで一度に叫んで、そつちの方へ走りました。その白い岩になつた處の入口に〔プリオシン海岸〕といふ、瀬戸物のつるつるした標札が立つて、向うの渚には、ところどころ細い鐵の欄干も植ゑられ、木製のきれいなベンチも置いてありました。
「おや、變なものがあるよ。」カムパネルラが、不思議さうに立ちどまつて、岩から黒い細長いさきの尖つたくるみの實のやうなものをひろひました。
「くるみの實だよ。そら、澤山ある。流れて來たんぢやない。岩の中に入つてるんだ。」
「大きいね、このくるみ、倍あるね。こいつはすこしもいたんでない。」
「早くあすこへ行つて見よう。きつと何か掘つてるから。」
二人は、ぎざぎざの黒いくるみの實を持ちながら、またさつきの方へ近よつて行きました。左手の渚には、波がやさしい稻妻のやうに燃えて寄せ、右手の崖には、いちめん銀や貝殼でこさへたやうなすすきの穗がゆれたのです。
だんだん近付いて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡をかけて長靴をはいた學者らしい人が、手帳に何かせはしさうに書きつ
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