りひのきの枝《えだ》にあかりをつけたりいろいろ仕度《したく》をしているのでした。
家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴《くつ》をぬいで上りますと、突《つ》き当りの大きな扉《と》をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて居《お》りました。
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子《テーブル》に座《すわ》った人の所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく棚《たな》をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡《わた》しました。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函《はこ》をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁《かべ》の隅の所へしゃがみ込《こ》むと小さなピンセットでまるで粟粒《あわつぶ》ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。青い胸あてをした人がジョバンニのうしろ
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