いえ」
「いまでも聞こえるじゃありませんか。そら、耳をすまして聴《き》いてごらんなさい」
二人《ふたり》は眼《め》を挙《あ》げ、耳をすましました。ごとごと鳴る汽車のひびきと、すすきの風との間から、ころんころんと水の湧《わ》くような音が聞こえて来るのでした。
「鶴《つる》、どうしてとるんですか」
「鶴《つる》ですか、それとも鷺《さぎ》ですか」
「鷺《さぎ》です」ジョバンニは、どっちでもいいと思いながら答えました。
「そいつはな、雑作《ぞうさ》ない。さぎというものは、みんな天の川の砂《すな》が凝《かたま》って、ぼおっとできるもんですからね、そして始終《しじゅう》川へ帰りますからね、川原で待《ま》っていて、鷺《さぎ》がみんな、脚《あし》をこういうふうにしておりてくるとこを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押《おさ》えちまうんです。するともう鷺《さぎ》は、かたまって安心《あんしん》して死《し》んじまいます。あとはもう、わかり切ってまさあ。押《お》し葉《ば》にするだけです」
「鷺《さぎ》を押《お》し葉《ば》にするんですか。標本《ひょうほん》ですか」
「標本《ひょうほん》じゃありま
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