す。ジョバンニは思わずどきっとして戻《もど》ろうとしましたが、思い直《なお》して、いっそう勢《いきお》いよくそっちへ歩いて行きました。
「川へ行くの」ジョバンニが言《い》おうとして、少しのどがつまったように思ったとき、
「ジョバンニ、ラッコの上着《うわぎ》が来るよ」さっきのザネリがまた叫《さけ》びました。
「ジョバンニ、ラッコの上着《うわぎ》が来るよ」すぐみんなが、続《つづ》いて叫《さけ》びました。ジョバンニはまっ赤になって、もう歩いているかもわからず、急《いそ》いで行きすぎようとしましたら、そのなかにカムパネルラがいたのです。カムパネルラはきのどくそうに、だまって少しわらって、おこらないだろうかというようにジョバンニの方を見ていました。
ジョバンニは、にげるようにその眼《め》を避《さ》け、そしてカムパネルラのせいの高いかたちが過《す》ぎて行ってまもなく、みんなはてんでに口笛《くちぶえ》を吹《ふ》きました。町かどを曲《ま》がるとき、ふりかえって見ましたら、ザネリがやはりふりかえって見ていました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛《くちぶえ》を吹《ふ》いて向《む》こうにぼんやり見える橋
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