りょう》をするか踊《おど》るかしてるんですよ」
 青年はいまどこにいるか忘《わす》れたというふうにポケットに手を入れて立ちながら言《い》いました。
 まったくインデアンは半分《はんぶん》は踊《おど》っているようでした。第一《だいいち》かけるにしても足のふみようがもっと経済《けいざい》もとれ本気にもなれそうでした。にわかにくっきり白いその羽根《はね》は前の方へ倒《たお》れるようになり、インデアンはぴたっと立ちどまって、すばやく弓《ゆみ》を空にひきました。そこから一|羽《わ》の鶴《つる》がふらふらと落《お》ちて来て、また走り出したインデアンの大きくひろげた両手《りょうて》に落《お》ちこみました。インデアンはうれしそうに立ってわらいました。そしてその鶴《つる》をもってこっちを見ている影《かげ》も、もうどんどん小さく遠くなり、電しんばしらの碍子《がいし》がきらっきらっと続《つづ》いて二つばかり光って、またとうもろこしの林になってしまいました。こっち側《がわ》の窓《まど》を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖《がけ》の上を走っていて、その谷の底《そこ》には川がやっぱり幅《はば》ひろく明るく流《なが》れていたのです。
「ええ、もうこの辺《へん》から下りです。なんせこんどは一ぺんにあの水面《すいめん》までおりて行くんですから容易《ようい》じゃありません。この傾斜《けいしゃ》があるもんですから汽車は決《けっ》して向《む》こうからこっちへは来ないんです。そら、もうだんだん早くなったでしょう」さっきの老人《ろうじん》らしい声が言《い》いました。
 どんどんどんどん汽車は降《お》りて行きました。崖《がけ》のはじに鉄道《てつどう》がかかるときは川が明るく下にのぞけたのです。ジョバンニはだんだんこころもちが明るくなってきました。汽車が小さな小屋《こや》の前を通って、その前にしょんぼりひとりの子供《こども》が立ってこっちを見ているときなどは思わず、ほう、と叫《さけ》びました。
 どんどんどんどん汽車は走って行きました。室中《へやじゅう》のひとたちは半分《はんぶん》うしろの方へ倒《たお》れるようになりながら腰掛《こしかけ》にしっかりしがみついていました。ジョバンニは思わずカムパネルラとわらいました。もうそして天の川は汽車のすぐ横手《よこて》をいままでよほど激《はげ》しく流《なが》れて来たらしく、と
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