の岸《きし》に、銀《ぎん》いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波《なみ》を立てているのでした。
「月夜でないよ。銀河《ぎんが》だから光るんだよ」ジョバンニは言《い》いながら、まるではね上がりたいくらい愉快《ゆかい》になって、足をこつこつ鳴らし、窓《まど》から顔を出して、高く高く星めぐりの口笛《くちぶえ》を吹《ふ》きながら一生けん命《めい》延《の》びあがって、その天の川の水を、見きわめようとしましたが、はじめはどうしてもそれが、はっきりしませんでした。けれどもだんだん気をつけて見ると、そのきれいな水は、ガラスよりも水素《すいそ》よりもすきとおって、ときどき眼《め》のかげんか、ちらちら紫《むらさき》いろのこまかな波《なみ》をたてたり、虹《にじ》のようにぎらっと光ったりしながら、声もなくどんどん流《なが》れて行き、野原にはあっちにもこっちにも、燐光《りんこう》の三角標《さんかくひょう》が、うつくしく立っていたのです。遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものは橙《だいだい》や黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、あるいは三角形《さんかくけい》、あるいは四辺形《しへんけい》、あるいは電《いなずま》や鎖《くさり》の形、さまざまにならんで、野原いっぱいに光っているのでした。ジョバンニは、まるでどきどきして、頭をやけに振《ふ》りました。するとほんとうに、そのきれいな野原《のはら》じゅうの青や橙《だいだい》や、いろいろかがやく三角標《さんかくひょう》も、てんでに息をつくように、ちらちらゆれたり顫《ふる》えたりしました。
「ぼくはもう、すっかり天の野原に来た」ジョバンニは言《い》いました。
「それに、この汽車|石炭《せきたん》をたいていないねえ」ジョバンニが左手をつき出して窓《まど》から前の方を見ながら言《い》いました。
「アルコールか電気だろう」カムパネルラが言《い》いました。
 するとちょうど、それに返事《へんじ》するように、どこか遠くの遠くのもやのもやの中から、セロのようなごうごうした声がきこえて来ました。
「ここの汽車は、スティームや電気でうごいていない。ただうごくようにきまっているからうごいているのだ。ごとごと音をたてていると、そうおまえたちは思っているけれども、それはいままで音をたてる汽車にばかりなれているためなの
前へ 次へ
全55ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング