からすうり》のあかりのようだとも思いました。
そのまっ黒な、松《まつ》や楢《なら》の林を越《こ》えると、にわかにがらんと空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亙《わた》っているのが見え、また頂《いただき》の、天気輪《てんきりん》の柱《はしら》も見わけられたのでした。つりがねそうか野ぎくかの花が、そこらいちめんに、夢《ゆめ》の中からでもかおりだしたというように咲《さ》き、鳥が一|疋《ぴき》、丘《おか》の上を鳴き続《つづ》けながら通って行きました。
ジョバンニは、頂《いただき》の天気輪《てんきりん》の柱《はしら》の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草に投《な》げました。
町の灯《あかり》は、暗《やみ》の中をまるで海の底《そこ》のお宮《みや》のけしきのようにともり、子供《こども》らの歌う声や口笛《くちぶえ》、きれぎれの叫《さけ》び声もかすかに聞こえて来るのでした。風が遠くで鳴り、丘《おか》の草もしずかにそよぎ、ジョバンニの汗《あせ》でぬれたシャツもつめたく冷《ひ》やされました。
野原から汽車の音が聞こえてきました。その小さな列車《れっしゃ》の窓《まど》は一列《いちれつ》小さく赤く見え、その中にはたくさんの旅人《たびびと》が、苹果《りんご》をむいたり、わらったり、いろいろなふうにしていると考えますと、ジョバンニは、もうなんとも言《い》えずかなしくなって、また眼《め》をそらに挙《あ》げました。
[#天から5字下げ](この間|原稿《げんこう》五|枚分《まいぶん》なし)
ところがいくら見ていても、そのそらは、ひる先生の言《い》ったような、がらんとした冷《つめ》たいとこだとは思われませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは小さな林や牧場《ぼくじょう》やらある野原《のはら》のように考えられてしかたなかったのです。そしてジョバンニは青い琴《こと》の星が、三つにも四つにもなって、ちらちらまたたき、脚《あし》が何べんも出たり引っ込《こ》んだりして、とうとう蕈《きのこ》のように長く延《の》びるのを見ました。またすぐ眼《め》の下のまちまでが、やっぱりぼんやりしたたくさんの星の集《あつ》まりか一つの大きなけむりかのように見えるように思いました。
六 銀河《ぎんが》ステーション
そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪《てんきりん》の柱《はしら》がいつか
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