ましたが、急《いそ》いで、
「では、よし」と言《い》いながら、自分で星図を指《さ》しました。
「このぼんやりと白い銀河《ぎんが》を大きないい望遠鏡《ぼうえんきょう》で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう」
ジョバンニはまっ赤《か》になってうなずきました。けれどもいつかジョバンニの眼《め》のなかには涙《なみだ》がいっぱいになりました。そうだ僕《ぼく》は知っていたのだ、もちろんカムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士《はかせ》のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌《ざっし》のなかにあったのだ。それどこでなくカムパネルラは、その雑誌《ざっし》を読むと、すぐお父さんの書斎《しょさい》から巨《おお》きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、まっ黒な頁《ページ》いっぱいに白に点々《てんてん》のある美《うつく》しい写真《しゃしん》を二人でいつまでも見たのでした。それをカムパネルラが忘《わす》れるはずもなかったのに、すぐに返事《へんじ》をしなかったのは、このごろぼくが、朝にも午後にも仕事《しごと》がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊《あそ》ばず、カムパネルラともあんまり物を言《い》わないようになったので、カムパネルラがそれを知ってきのどくがってわざと返事《へんじ》をしなかったのだ、そう考えるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がするのでした。
先生はまた言《い》いました。
「ですからもしもこの天の川がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂《すな》や砂利《じゃり》の粒《つぶ》にもあたるわけです。またこれを巨《おお》きな乳《ちち》の流《なが》れと考えるなら、もっと天の川とよく似《に》ています。つまりその星はみな、乳《ちち》のなかにまるで細《こま》かにうかんでいる脂油《あぶら》の球《たま》にもあたるのです。そんなら何がその川の水にあたるかと言《い》いますと、それは真空《しんくう》という光をある速《はや》さで伝《つた》えるもので、太陽《たいよう》や地球《ちきゅう》もやっぱりそのなかに浮《う》かんでいるのです。つまりは私《わたし》どもも天の川の水のなかに棲《す》んでいるわけです。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見え
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