みんな泣《な》いていました。雀《すずめ》や、かけすや、うぐいすはもちろん、大きな大きな梟《ふくろう》や、それに、ひばりの親子までがはいっているのです。
 ホモイのお父さんは蓋《ふた》をあけました。
 鳥がみんな飛《と》び出して地面《じめん》に手をついて声をそろえて言《い》いました。
 「ありがとうございます。ほんとうにたびたびおかげ様《さま》でございます」
 するとホモイのお父さんが申《もう》しました。
 「どういたしまして、私どもは面目《めんもく》次第《しだい》もございません。あなた方の王さまからいただいた玉《たま》をとうとう曇《くも》らしてしまったのです」
 鳥が一|遍《ぺん》に言《い》いました。
 「まあどうしたのでしょう。どうかちょっと拝見《はいけん》いたしたいものです」
 「さあどうぞ」と言《い》いながらホモイのお父さんは、みんなをおうちの方へ案内《あんない》しました。鳥はぞろぞろついて行きました。ホモイはみんなのあとを泣《な》きながらしょんぼりついて行きました。梟《ふくろう》が大股《おおまた》にのっそのっそと歩きながら時々こわい眼《め》をしてホモイをふりかえって見ました。
 みんなはおうちにはいりました。
 鳥は、ゆかや棚《たな》や机《つくえ》や、うちじゅうのあらゆる場所《ばしょ》をふさぎました。梟《ふくろう》が目玉を途方《とほう》もない方に向《む》けながら、しきりに「オホン、オホン」とせきばらいをします。
 ホモイのお父さんがただの白い石になってしまった貝《かい》の火を取りあげて、
 「もうこんなぐあいです。どうかたくさん笑《わら》ってやってください」と言《い》うとたん、貝《かい》の火は鋭《するど》くカチッと鳴って二つに割《わ》れました。
 と思うと、パチパチパチッとはげしい音がして見る見るまるで煙《けむり》のように砕《くだ》けました。
 ホモイが入口でアッと言《い》って倒《たお》れました。目にその粉《こな》がはいったのです。みんなは驚《おどろ》いてそっちへ行こうとしますと、今度《こんど》はそこらにピチピチピチと音がして煙《けむり》がだんだん集《あつ》まり、やがて立派《りっぱ》ないくつかのかけらになり、おしまいにカタッと二つかけらが組み合って、すっかり昔《むかし》の貝《かい》の火になりました。玉はまるで噴火《ふんか》のように燃《も》え、夕日《ゆうひ》のようにかがやき、ヒューと音を立てて窓《まど》から外の方へ飛《と》んで行きました。
 鳥はみんな興《きょう》をさまして、一人|去《さ》り二人|去《さ》り今はふくろうだけになりました。ふくろうはじろじろ室《へや》の中を見まわしながら、
 「たった六日《むいか》だったな。ホッホ
  たった六日だったな。ホッホ」
 とあざ笑《わら》って、肩《かた》をゆすぶって大股《おおまた》に出て行きました。
 それにホモイの目は、もうさっきの玉のように白く濁《にご》ってしまって、まったく物が見えなくなったのです。
 はじめからおしまいまでお母さんは泣《な》いてばかりおりました。お父さんが腕《うで》を組んでじっと考えていましたが、やがてホモイのせなかを静《しず》かにたたいて言《い》いました。
 「泣《な》くな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。目はきっとまたよくなる。お父さんがよくしてやるから。な。泣《な》くな」
 窓《まど》の外では霧《きり》が晴《は》れて鈴蘭《すずらん》の葉《は》がきらきら光り、つりがねそうは、
 「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン」と朝の鐘《かね》を高く鳴《な》らしました。



底本:「銀河鉄道の夜」角川文庫、角川書店
   1969(昭和44)年7月20日初版発行
   1991(平成3)年6月10日65刷
底本の親本:「第二次宮沢賢治全集 第十巻」筑摩書房
   1969(昭和44)年初版発行
※本作品中には、身体的・精神的素質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代的背景と価値、加えて作者の抱えた限界を読者自身が認識するこのと意義を考慮し、底本のままにしました。(青空文庫)
入力:ゆかこ
校正:林 幸雄
2001年2月15日公開
青空文庫作成ファイル:
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