ようなことは、ひばりも言《い》っていました。僕《ぼく》は毎日百|遍《ぺん》ずつ息《いき》をふきかけて百|遍《ぺん》ずつ紅雀《べにすずめ》の毛でみがいてやりましょう」
 兎《うさぎ》のおっかさんも、玉を手にとってよくよくながめました。そして言《い》いました。
 「この玉はたいへん損《そん》じやすいという事です。けれども、また亡《な》くなった鷲《わし》の大臣《だいじん》が持《も》っていた時は、大噴火《だいふんか》があって大臣《だいじん》が鳥の避難《ひなん》のために、あちこちさしずをして歩いている間に、この玉が山ほどある石に打《う》たれたり、まっかな熔岩《ようがん》に流《なが》されたりしても、いっこうきずも曇《くも》りもつかないでかえって前よりも美《うつく》しくなったという話ですよ」
 兎《うさぎ》のおとうさんが申《もう》しました。
 「そうだ。それは名高いはなしだ。お前もきっと鷲《わし》の大臣《だいじん》のような名高い人になるだろう。よくいじわるなんかしないように気をつけないといけないぞ」
 ホモイはつかれてねむくなりました。そして自分のお床《とこ》にコロリと横《よこ》になって言《い》いました。
 「大丈夫《だいじょうぶ》だよ。僕《ぼく》なんかきっと立派《りっぱ》にやるよ。玉は僕《ぼく》持《も》って寝《ね》るんだからください」
 兎《うさぎ》のおっかさんは玉を渡《わた》しました。ホモイはそれを胸《むね》にあててすぐねむってしまいました。
 その晩《ばん》の夢《ゆめ》の奇麗《きれい》なことは、黄や緑《みどり》の火が空で燃《も》えたり、野原《のはら》が一面《いちめん》黄金《きん》の草に変《かわ》ったり、たくさんの小さな風車が蜂《はち》のようにかすかにうなって空中を飛《と》んであるいたり、仁義《じんぎ》をそなえた鷲《わし》の大臣《だいじん》が、銀色《ぎんいろ》のマントをきらきら波立《なみだ》てて野原《のはら》を見まわったり、ホモイはうれしさに何遍《なんべん》も、
 「ホウ。やってるぞ、やってるぞ」と声をあげたくらいです。
       *
 あくる朝、ホモイは七時ごろ目をさまして、まず第一《だいいち》に玉を見ました。玉の美《うつく》しいことは、昨夜《ゆうべ》よりもっとです。ホモイは玉をのぞいて、ひとりごとを言《い》いました。
 「見える、見える。あそこが噴火口《ふんかこう》だ
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