やろうじゃありませんか」と言《い》いました。
 ホモイはちょっとその動物園《どうぶつえん》の景色《ありさま》を考えてみて、たまらなくおもしろくなりました。そこで、
 「やろう。けれども、大丈夫《だいじょうぶ》その網《あみ》でとれるかい」と言《い》いました。
 狐《きつね》がいかにもおかしそうにして、
 「大丈夫《だいじょうぶ》ですとも。あなたは早くパンを置《お》いておいでなさい。そのうちに私はもう百ぐらいは集《あつ》めておきますから」と言《い》いました。
 ホモイは、急《いそ》いで角《かく》パンを取《と》ってお家に帰って、台所《だいどころ》の棚《たな》の上に載《の》せて、また急《いそ》いで帰って来ました。
 見るともう狐《きつね》は霧《きり》の中の樺《かば》の木に、すっかり網《あみ》をかけて、口を大きくあけて笑《わら》っていました。
 「はははは、ご覧《らん》なさい。もう四|疋《ひき》つかまりましたよ」
 狐《きつね》はどこから持《も》って来たか大きな硝子箱《ガラスばこ》を指《ゆび》さして言《い》いました。
 本当にその中には、かけすと鶯《うぐいす》と紅雀《べにすずめ》と、ひわと、四|疋《ひき》はいってばたばたしておりました。
 けれどもホモイの顔を見ると、みんな急《きゅう》に安心《あんしん》したように静《しず》まりました。
 鶯《うぐいす》が硝子《ガラス》越《ご》しに申《もう》しました。
 「ホモイさん。どうかあなたのお力で助《たす》けてやってください。私らは狐《きつね》につかまったのです。あしたはきっと食われます。お願《ねが》いでございます。ホモイさん」
 ホモイはすぐ箱《はこ》を開《ひら》こうとしました。
 すると、狐《きつね》が額《ひたい》に黒い皺《しわ》をよせて、眼《め》を釣《つ》りあげてどなりました。
 「ホモイ。気をつけろ。その箱《はこ》に手でもかけてみろ。食い殺《ころ》すぞ。泥棒《どろぼう》め」
 まるで口が横《よこ》に裂《さ》けそうです。
 ホモイはこわくなってしまって、いちもくさんにおうちへ帰りました。今日はおっかさんも野原に出て、うちにいませんでした。
 ホモイはあまり胸《むね》がどきどきするので、あの貝《かい》の火を見ようと函《はこ》を出して蓋《ふた》を開《ひら》きました。
 それはやはり火のように燃《も》えておりました。けれども気のせいか、
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